その味わいの思い出は永遠に~さようなら「とんかついもや」(千代田区神田神保町)
「いもや」閉店の一報を受けたのは、先月、3月20日のこと。
城南メイツの同期であるK氏が、LINEのグループメッセージに、Yahooヘッドラインの記事「神保町で愛され続けて60年―天丼『いもや』の閉店に隠された”人情経営”の限界(週プレNEWS)」を投げ込んできたのが最初だった。
その情報を受けて、最初に思い出したのは、かつて20年前に「とんかついもや(二丁目店)」を紹介し、連れて行ってくれた「Y氏」のことだった。
Y氏は、高校の部活動で知り合った友人。
自分とは違う高校(神奈川県立麻○台高校)、大学(成○大学)の出身だが、妙にウマがあう。学生時代には乗馬もやっていたスポーツマン。昨年11月に結婚式を挙げた新婚さんである。
大学浪人時代には神保町の「研○学館」へ通っており、近所にある「とんかついもや」の常連だった。
現在は浜松市在住だが、あのY氏ならば、いもや閉店について何らかの情報を知っているのではないか―と、さっそく電話をかけてみた。
だが、返ってきた言葉は「自分もネット上のニュースで知らされている以上のことは分からない。いもやの閉店は心から残念。(いもやは)僕の青春でしたからね」というものだった。
いもやのラストデーは3月31日(土)であるから、
「浜松から食べには来ないの?俺と一緒に最後にいもやに食べに行かないか?」
と誘ってみたのだが、
「年度末で、おまけに土曜もイベントの準備で忙しいので無理だ」という返事。
「了解。俺一人でも、いもやラストデーを楽しんでくるよ!」と言って、電話を切ったのであった。
…そして、1週間が過ぎ、あっという間に3月31日(土)がやってきた。
まだ真っ暗な午前2時に起床し、途中休憩をはさみながら、ひたすら深夜の東北自動車道と首都高速を6時間ほど走り続けた。
午前8時半過ぎに、蒲田行きつけの駐車場(大田区営アロマ地下駐車場)へ滑りこみ、しばし休憩。
蒲田~田町(京浜東北線)~三田~神保町(都営三田線)と電車を乗り継いで、いざ「とんかついもや(二丁目店)」へ。
途中、通りすがりにある「天丼いもや」の様子を覗くと、こちらも10時40分現在で、開店を待ち望む客が50m以上は列をつくっているのだった。
(こりゃ、とんかついもやの方も、相当並んでいるんだろうなぁ…)
想像どおり、いやそれ以上だった。
自分が「とんかついもや」の店先に着いたのは、開店15分前の10時45分。
店先から70mはあっただろうか、通りを一本入った「マルエツ プチ神田」の前まで約100人が行列をつくり、開店を今か今かと待ちわびているのであった。
…ほどなくして、店が開店したようだ。
一気に列の先頭がお店の中に吸い込まれていき、行列が少しずつ前に進み始めた。
(元々回転の速いお店だし、この人数ならば、1時間半もあれば順番が回ってくるかな。まぁ夜(の城南会飲み会)までは特に予定も入れていないし、のんびりいこう…)
と、道路沿いに設置されたガードレールに腰かけて、その時が来るのを待つのであった。
↑店の軒先に置かれた、キャベツとしじみの箱。
あのキャベツって愛知県産で、しじみは青森の十三湖産だったのかと、20年いもやに通って初めて知った瞬間である(笑)
↑換気扇から流れてくる厨房の熱気と、ごま油?と思しき油の香り。昔も今も変わらない。この匂いが、また食欲を誘うんだよなぁ~。
そして、12時15分。
思っていたよりも早く、その時はやってきた!
↑この店では、カウンターに料理が提供されたら、すぐに食べ始めないと、店員に怒られる(いもやにおける暗黙の了解事項のひとつ)。画像は、ネット上から拾ってきたもの(爆)
白木のカウンター席に着席し、いよいよ待望の「とんかつ定食(税込800円)」の登場である。
まずはシジミ汁を一口すする。貝殻にくっついたシジミの身をほじくりながら、出汁が利いた味噌汁を堪能する。
(ああ、確かにこの味だ。最初に食べた20年前と変わらない味だ…。
二日酔いの時とか、きっと呑兵衛にはたまらない味なんだろうなぁ…)
ロースのとんかつは、西洋辛子(マスタード)を少々つけて、特製ソースを適量かけて食べるのが、この店のセオリーだ。
↑イメージ的にはこんな感じ。
とんかつの端っこの部分、ここは脂身からジュワッと肉汁がほとばしる、個人的には一番好きで、最初に食べる部分だ。
その次は、とんかつの真ん中の部分(二度揚げでサクサクとなった衣と豚のロース赤身肉の部分)をほおばりながら、付け合わせのキャベツと銀シャリ(※)をかきこむ。
(※)いもやの「銀シャリ」
:いもやのご飯は、大きな釜で炊き上げた後、必ずおひつに移してから提供されている。このひと手間により、余計な水分が抜けて、ツヤツヤで絶妙な噛み応えの美味しいご飯になるのだ。
これぞ、至福のとんかつの味である。
(正確に言えば、「とんかついもや」よりももっと美味いとんかつはこの世に存在する。が、この値段(800円)でこれだけの品質、味で食わせてくれる店を私は知らない。そういう意味での「至福の味」であることを申し添えたい。)
15分ほどで、この店での最後のとんかつを食べ終わったとき、この20年のうちに何度となくこの店に通った思い出と、何とも言えない気持ちが胸に込み上げてきた。
「ごちそうさま。20年間ありがとう」と言って、お金を払い、私は店を出た。
店を出ると、自分が並んでいたとき以上に、列は伸びているようだ。
とんかついもやの職人さんは、準備した材料がなくなるまでは休むヒマもなく、今日はとんかつ定食を提供し続けるのだろう。
「(職人さん)おつかれさま。そして、今までありがとう!」
そう心の中でつぶやいて、私は歩き始めたのであった。(→次回に続く!)
(後日談)
普段、女性客なんて一度も見たことがなかった「いもや」だが、この日ばかりは少し様子が違っていた。
列に並んでいたときに、自分のすぐ前と後ろの組に、女性の2人組(女子大生と自分より若い目の社会人?)がそれぞれいたのだ。
ラストデーともなると、色々な人が閉店を惜しんで店に来るものなのかなと感じた一コマだった。
何しろ、ふだんは10割方、野郎の浪人生と大学生、サラリーマンでにぎわっていたお店だったからねぇ。
以前は、無料で提供される「いぶりがっこ(たくあん)」がカウンター上にあったはずなのだが、今回のラストデー訪問時には、なぜかそれがなかった。
このいぶりがっこだけで、茶わん飯1杯は楽に食える!という人がいたぐらい、人気の付け合わせだったというのに。それがなかったのは少し残念だったなぁ。
ラストデーで提供するヒマがないということだったのだろう、この日は、ヒレカツ定食(1,000円)の提供は中止されていた。もっとも昔からヒレカツを頼むことはなかったから、大勢に影響はなかったのだけれども(爆)
最後に、いもやラストデーということで、いもや社長からの来店プレゼントとして、客1人ずつにチョコレートが振舞われていた。(店の出口にチョコが山積みになっていて、退店時に1個持っていってくれというお話だった。)
いわゆる「カカオ88%」の苦いタイプのチョコレートだったのだが、最後まで“ほろ苦い”思い出をありがとう(笑)いもや。あのとんかつの味は、一生忘れません。
参考:
とんかついもや 二丁目店(2018年3月31日閉店)
営業時間:11:00~20:00 ※材料がなくなり次第、閉店
(日曜営業)
※今回閉店したのは、宮田静江社長の経営による直営店である。
元従業員が独立・開業した店舗4店舗では、引き続き「とんかつ」と「天ぷら」を食べられるので、「いもや」が好きだった方は、ぜひこちらの店舗をご愛顧・利用していただきたいと思う。
・神田神保町1丁目「天ぷら・いもや」
・東京・東神田の「とんかつ・いもや」